子どものグリーフ
大切な人を亡くした子どもは、大人と同じようにグリーフを抱えます。グリーフをどのように表現するかは、子どもの発達段階や姉、兄、あるいは妹、弟とどのような関係にあったかによっても異なります。
大切な人を亡くした子どものグリーフの特徴
子どもの場合、物事の理解、特に「死の概念の理解」は発達途上にあるため、年齢によって理解が異なります。特に思考は具体的で、物事を一般化しがちで、他の事象にも当てはめて考えがちです。また、自分自身の将来や環境への不安を感じ、現実よりももっと悪く考えてしまう傾向があります。
発達段階(年齢等)によって、感じているグリーフを言葉で伝えることが難しいことがあります。そのため、時に、行動や遊び、身体を通して表現することが多いです。また、グリーフに関することを繰り返し質問したり、行動を繰り返すこともあります。繰り返し質問し確認することは、子どもの理解を助けるので、丁寧に対応していくことが大切です。
喪失体験に対する理解や反応は成長とともに変化し再体験します。喪失体験は過去のことでも反応は現在進行形です。→表現や反応、理解は成長とともに変化していきます。そのため、理解できる年齢になったら、再度伝えるといったことも必要になることがあります。
大切な人を亡くした子どものグリーフ反応
子どもの反応の多くは、大人のグリーフ反応と共通するものですが、表に示すように、情緒、行動、身体面、社会面など、多岐にわたる反応を示します。
グリーフの反応は、泣く、涙を流すなど意外に、子どもは身体反応として、腹痛や頭痛などの痛み、体がだるい、活気がなくいつものように遊ばないなどの反応が見られます。
大切な人を亡くした子どもの反応
- 情緒面
- 悲しみ・怒り・泣く・恐れ・不安・気分のむら・抑うつ・興奮・罪悪感・自尊心が低くなる・未来に希望が持てない
- 行動面
- 乱暴・落ち着かない・はしゃぐ・上の空になる・何事もなかったように振る舞う・活気がない
- 身体面
- 頭痛・腹痛・倦怠感・めまい・食欲不振・不眠
- 社会面
- 退行・親から離れない・攻撃的な行動・ひきこもる・学習に集中できない
引用元:高橋聡美編著. グリーフケア. メヂカルフレンド社, 2012
子どもは、大切な人との死別という大きなストレスを抱えた時に、それに対処する方法や十分に伝えるすべを持っていないため、強い悲しみは、時には怒りとなり、亡くなった本人や他の家族に矛先を向けたり、学校での様子に変化が見られることがあります。例えば、いらいらする、学校で友達に乱暴な行動をとるなどです。
さらに、あかちゃんがえり(退行)のように、これまでできていたことができなくなる、例えばトイレにいけなくなったり、親から離れないなどは、子ども特有の反応とも言えます。
子どものグリーフに影響するもの
基本的には、大人の場合と同様ですが、子どもの年齢・発達段階やストレスへの対処方法(コーピングスタイル)、亡くなった人の属性(親、きょうだい、祖父母、友人など)、死因、愛着の性質、どのように亡くなったか、過去の喪失体験、サポートの有無やサポート環境が影響します。
子どもの場合、発達段階により認知や思考のレベルに違いが見られ、大人では考えつかないような意味付けをすることがあります。きょうだいとの喧嘩や療養中のきょうだい、親への複雑な気持ちが、その後の思いや行動に影響を与えることもあります。
きょうだいを亡くした場合は、以下のようなことが影響することがあります。
- 遊び仲間、競争相手を失う
- 親のグリーフ
- 「子どもの死」ということへの気づき
- 「遺されたきょうだい」としてのプレッシャー
- きょうだい間の葛藤(例:母親を独り占めされた、けんかしたままだった)
- 二次的喪失:親もグリーフを抱えており、一時的に親としての役割が十分に機能しない
グリーフを抱える子どもを支える大人の方へ
大人と同じように、大切な人を亡くした子どもや10代の若者もグリーフを抱えます。母親、父親、祖父母、それぞれ、異なる形でグリーフを抱えるように、子どもたちも各自の方法でグリーフを表現します。グリーフをどのように表現するかは、子どもの年齢(発達段階)や、姉、兄あるいは妹、弟とどのような関係にあったかによっても異なります。中には言葉で思いを表現できる子もいれば、行動で示す子もいます。親や他者への甘え(依存)が強くなったり、時にはおねしょ(夜尿)などが見られることがあります。また、死についてのごっこ遊びをすることもあるかもしれません。大人には不安に感じられるかもしれませんが、これらの遊びは普通のことであり、言葉にできない気持ちを表現しようとする試みの一つです。一方、10代の若者は家族から距離を置き、友達と過ごすことを好む場合があります。悲しいのに明るく振舞うこともあり、子どもによって表現方法が異なることもあります。
特に兄弟姉妹が亡くなった直後は、子どもたちと気持ちの上でも物理的にもつながっておくことが大切です。周囲の大人は、亡くなった子ども、そして親へ関心がいきがちで、結果的に遺されたきょうだいが蚊帳の外に置かれることがあるかもしれません。たとえば、近しい人の発する「お父さん、お母さんを支えてあげてね」といった言葉かけは、時に、きょうだいを亡くした子どもにとって、「僕/私のことは誰が気にかけてくれるの?」
周囲の大人たちが悲しみや動揺している理由を説明することで、子どもたちも状況をある程度、理解することができます。事実を正直に話し、年齢や発達段階に応じた簡単な言葉で死について説明することが子どもなりの納得につながることもあります。きょうだいが長く病気だった場合、病気や死について予め話しているかもしれません。しかし、突然の死や予期せぬ死の場合には、多くの疑問が生じるでしょう。そして、その全てに大人が答えられるわけではないかもしれません。特に、大人は、時に悲しい出来事ことから子どもを遠ざけたいと感じることがありますが、子どもの気持ちに合わせて、話をしたり、儀式に参加させるなどするとよいかもしれません。
子どもにきょうだいの死について話す際に役立ついくつかのヒントをご紹介します
- ・事実を簡単な言葉で伝える
- 簡単な言葉で死について事実を伝えるのも良いでしょう。 家族が普段使う言葉を用いるなど、コミュニケーションスタイルに合った理解しやすい言葉を使いましょう。
- ・質問を促す
- 何度でも質問してもよい雰囲気作りに努めましょう。 質問には簡潔かつ正直に答えるようにしましょう。
- ・婉曲表現を避ける
- 「天使になった」などの婉曲表現はなるべく避けましょう。これらは時に混乱を招く場合があります。
- ・死の物理的事実(※)を説明する
- 死の物理的な事実を、正確で簡単な言葉で説明しましょう。
※心臓が止まってしまった、身体が冷たくなって動かない、お別れしないといけない等 - ・分からないことは分からないと子どもにも伝える
- 大人も答えが分からない質問については、分からないと伝えましょう。
- ・悲しむことは自然なことだと伝える
- 悲しんで泣いても良いことを伝え、大人も悲しんでいることを話すとよいでしょう。
亡くなった子どもとの繋がりを保つことは、大人にとっても子どもにとっても大切です。大人(親等)は、亡くなった子どもとの繋がりを保ちつつ、他の子どもたちにもきょうだいとの関係を保つ方法を見つけることが重要です。亡くなったきょうだいについて話しをする家族なりの方法を見つけるとよいでしょう。子どもや10代の若者にとっては、通常、大人が率先して会話を始めることが必要でしょう。後になってからでも、家族の儀式や家族の記念日等を通じて、亡くなった子どもがいないこと(不在)を認識することは、他の子どもたちとのコミュニケーションを維持するために役立ちます。
役立つヒントには以下のようなものがあります
- ・定期的な家族の時間を設ける
- 子どもたちとの定期的な時間を設け、きょうだいの死をどう受け止めているか確認してみましょう
- ・亡くなったきょうだいが好きだった場所を訪れる
- 思い出の場所を訪れることも有意義でしょう。
- ・自分の思いを共有する
- 自分の感情を子どもたちとも共有しましょう
- ・亡くなったきょうだいをどう記憶したいか、子どもたちに尋ねましょう。
- (例:亡くなった子どもに手紙を書く、日記・メモリーブック、フォトブックなどを作る、写真に目を通す、亡くなった子どもの物語を書く。)
- ・子どもたちの疑問や質問を共有するよう促す
- 子ども自身が、抱える疑問や質問を共有するように促しましょう。
何か疑問や質問があるときは、書き出すことを子どもに勧めるのもよいでしょう。 - ・家族が一緒にいるときには亡くなった子どもの名前を使う
- これは亡くなったきょうだいのことを話し続けても良いというメッセージにもなります。 あるいは、亡くなった子どものことを話すこともよいでしょう。
- ・同じ経験をした子どもが集まるサポートグループやキャンプを探す
- 同じ体験を持つ他の子供たちと会える場所を探してみましょう。
- ・亡くなったきょうだいの記憶をサポートする活動を行う
- (例:きょうだいの好きだった活動に参加する等)